BLOG MYSTERY NOVELS -188ページ目

スマート・スマート(6)

 

 題「黒いメロディ」



 髪の毛の一筋に、想いのルフランを込めて迷路(パーマ)。
 優しく撫でる度に、芳香漂う裸体のメロディ。

 指先でその黒い迷路をかきあげて、背中へと垂らした瞬間。
 背に、数千本の黒蜘蛛の手足、
 そして黒糸が垂れる。


 黒のメロディに支配された世界。
 黒蜘蛛は女の背中を徘徊し、
 風の旋律に合わせて右へ、
 そして左へ。

 

 気が付くと、それは果てなく伸びていて、
 隣人の手足に絡もうとしていた。

 糸のダンスで狂おう。

 蜘蛛の糸が、五線譜の如く不気味な音を奏で始める。

 

 これは女の飼う蜘蛛の悪戯なのか?
 そう、蜘蛛に問うてみた。

 蜘蛛は答える。
「なにをおっしゃられます。これは単なる、女の髪でございまする」
 錯覚の段々畑で遊んでいた瞳の奥が、ひくりとUPーDOWN。

 そこで私は、女の後ろ髪を、衝動的に引っ張ってみた。
 鳥獣のような叫びを上げる君。
 次の瞬間であった。

 

 お、女の髪の毛は、白髪へと変化を遂げていたのである。
 黒から白へ、一瞬の間に起きた七変化。
 彼女の髪の毛は、見事に色を変えた。


 それを機に私は、
 人の髪の毛を白く変える奇術師となる道を選んだ。
 その専門家となる道を(依頼あれば伺いますと書いた名刺を手に)。


 が、この白髪の奇術師の(現場に)残す「白紋」を追いかけ、
 とうとうこの廃墟ビル地下に設けたアジトまで突き止めてくれた男を今、
 私は前にしている。

 そう、奴だ、探偵業を営む百間川のエジソンという気障な帽子野郎。
 もはやこれまでか。

 

 しかし、目の前の若い気障野郎の言葉を前に、
 最後の最後で私は観念することとにした。

 理由は簡単。
 奴の言葉にひれ伏せられたからだ。

 まるで、犯罪者を撲滅する正義の十字軍気取りの男一人の台詞に説得されたことは、
 恥ずべきかもしれないが、おそらく私にも焼きが回ったと言うことだろう……。

「白髪の奇術師。この指揮棒を手に街頭に立って振り、

今まで白髪にしていった女たちのメラニン色素を活性化させるんだ。

 何故ならば、この指揮棒には、メラニン色素を作るチロシナーゼという酵素と、色素細胞を活性化させる香りと波長を出す機能を持たせてある。

 だから、これを振り続ければ、髪の毛に、黒い色素を取り戻させられるはず。

 が、皆の髪の色素を活性化させ、白く染まった色を、元へと戻すには時間がかかるだろうが、

 

 それもお前の道。

 長い時間をかけて、大菩薩峠を歩いていくことで、
 己の犯した罪を、償っていくんだ。

 そう、それがお前の第二の人生のはずだ」

 との言葉に、私は、ひれ伏せられてしまったのだ。

スマート・スマート(5)


題「虚構の迷路」



 雨に打たれたポスター。
 水滴を染み込んでは笑うモデルの笑みに
 人生の愛憎、深さを思ってしまい、
 交差点の信号が変わると同時に、

 アクセルに掛かる手を強く握りこんで、
 奥歯を噛み締める。  

 

 色々な物から逃れるように、 
 夜の底に向かって走っていく。

 

 でも自分の行き場は、疾駆する想像とは反比例して、
 ひどく近場で、怨霊を喚起させるほどにおどろおどろしい勢いで煙の上る工場の壁の前で、いつも終わる。

 

 そんな行き止まりのブルース。

 

 靴先をアスファルトに降ろして、反響させるは身体の声。
 目前にある黒碧の海に石を投げてみた。

 

 その揺らぎから、海の言葉を拾い、
 潮の香りに、数秒間酔う。

 

 層の境を、今はひどく狭める空と海とに溶けていこう。

 自然の気と輪郭を重ねるように、
 自分の原子を三日月型に、そして円形へと形状変化させていき、
 気の日食(気食)を起こす。

 

 そうやって、身体の毒素を抜いていき、
 新陳代謝をファッショナブルに回転。

 さっきより、体が軽くなったら、
 もう一つ石を投げて、
 その場を去る。

 

 いや、振り返ると、
 空にはもう一つ月が浮かんでいた。
 んっ、あれは月じゃあない。地球だ。
 じゃあ、ここは一体どこなんだ。

 また海の側を振り返る。
 すると、そこには砂丘のような世界が……。

 

 どうやら、先ほど行なった原子分解の結果。
 自分の形が距離を超え、さらに満月と符号し、
 円形をキーワードにして、互いの原子が呼び合ったのか?
 私は月面上へと立っていた。

 だから、背後に見えるのは地球なのだ。いや、そうに違いない。
 うっ、苦しい、息が……。

「ここです、人骨が発見されたのは」
「確かに、人間の骨に間違いなさそうですね」
「しかし、どうして……我々の知らない宇宙飛行士の物でしょうか」
「いえ。この死体は突如失踪した日本人K氏の物ではないかと思うのですよ。彼の手記などを見ていて、彼の謎めいた失踪を追いかけていただけ、私の本格無重力推理のカンが騒ぐのです。実は彼は、体内を原子分解するスイッチが脳にあるのではないかと妄想していたようで。色々な呪文を唱えては、脳内にあるらしき謎のスイッチを入れる周波数などを探していたそうなのです。私には理解の及ばぬ論理なのですが……彼にとっては正論への足がかりを摸索していたのでしょう」
「は、はあ」
「それら(ここでは述べられませんが)、骨格、総じて体型を始め、他にも幾つか符号する点もあります。早速地球へと持ち帰って人骨のDNA鑑定を行うことにしましょう」
 そう言うと(警視庁特別捜査官兼探偵の)百間川のエジソンこと百間川一声(ひゃっけんがわいっせい)は、スペース・ディティクティブ・シャトルへと帰還。

 数日後。DNA鑑定の結果。
 宇宙旅行中に偶然、月面にて人骨の発掘に遭遇した名探偵「百間川のエジソン」の推理は正解に到った。
 その栄誉に対して、国際警察から、特別賞が授与されることとなった。


 しかし、百間川のエジソンを書いている作者は、何故か生きている。
 しかし、それは気のせいかもしれない?

 百間川のエジソンと、作者K(薫葉豊輝)が途中で入れ替わっていたら、この文章は百間川のエジソンが書いていることになる。つまり(過去を振り返った)自伝だ。

 果たして私は誰なのだろう?
 誰であるかさえわからなくなってしまった。


 と、(最近パズル・ミステリから離れがちなだけに)パズルの国で遊んでいる私なのであった。
 事実、私、薫葉。

 何故ならば、これが百間川のエジソンの自伝であるならば、

 この2005年の現時点で、一般人の宇宙旅行など到底不可能。

スマート・スマート(4)


題「寂しがり屋のゾロアスター」

 

 

 秘密の書庫で本を広げる。

 火打ち石で起こした炎。

 灯籠で読む「衒学の書」

 

 ウェブ系言論に背を向けて、

 アナログの字面へと口付ける。

 そんな蝋燭の炎を魚に、

 脂染みた書物をめくっている吾は「寂しがり屋のゾロアスター」
 炎を司る民の末裔。

 

 まるで「式神」のように、

 頁の隙間から、紙の騎士を繰り出し、

 謎めいたこの世の営みを探る。

 

 子丑寅と、数え歌。

 炎の消えぬうちに、今夜もゾロアスターの呪文を口ずさむ。


 音が風に乗り、

 言葉はいつしか口笛に。

 室内に配した炎の彫刻が踊り出す。

 

 束の間の安らぎ。

 静かなる幻談。

 炎の消えた瞬間。

 

 そして誰もいなくなる。

 

 何故って?

 炎無き所に吾はいないから

書評1

愛知万博へ旅行中だったため。更新が滞っていました。

そこで、今週読んだ最新のミステリの私書評をご紹介します!

 

ちなみに、詩の連載は、もう少し続ける予定ですので、今後とも目を通してやって下さい!

 

 

 

「『ギロチン城』殺人事件」 北山猛邦 講談社ノベルス (2005/3/18・840円) 00000

 各国のギロチンを収集する国内にある(道桐一の住む)「ギロチン城」
 ロシア(からくり)人形に隠されていた写真を元に『ギロチン城』を訪れる幕辺ナコと頼科勇生。指紋を始め、あらゆる認証システムの整備されたスクウェアと呼ばれる回廊(四角に四部屋があり、四部屋にて)で、四名の死体を頼科達は発見。が侵入した者はいない。そう、全員にアリバイが存在するのだ?
 いかにして、この(角に四部屋ある)四角い廊下の出入り口へと犯人は侵入し、そのまま消え去ることができたのか?
 回廊にあった人形には意味があるのか?
 回廊と、切断された頭部と胴体に隠された論理を紐解く、計算系推理小説!(2005年刊行)

 ゴースト・オチ、心理トリックには走らない物理トリックと言う名の(ある種の)騎士道精神?を持って執筆を続けるパフォーマー北山氏の「城」シリーズ第四弾!
 メフィスト賞作家北山氏は鎧を負っている。島田荘司から受け継ぐ伝統の物理トリック?と言う名の鎧を。
 そして、その若さに任せて彼は、伝家の宝刀を抜き続ける。プロット、キャラクターは第二義。トリック至上主義者である自身のテイストをアクセル全開で表現し、常に新しいトリックを思案し続ける。そう、傾向はあっても、同じではないのだ、トリックが。どこか一点に必ず新奇性がある!
 緻密な計算力。素晴らしいひらめき。魔的な世界観。演出の鬼才であり、メカニズムを操る人形師。手の上で(捻りに捻った)論理を転がし、物語を大胆な仕掛けによって裏返してくれる奇術師。
 さて、本作はミステリとしてどうなのだろう?背景に、「動く家の殺人」(歌野晶午著)「笑わない数学者」(森博嗣著)があり、さらに「捩れ屋敷の利鈍」(森博嗣著)に挑戦している。
 が、緩い挑戦ではないのだ。単なる回転という物理現象には甘んじてはいない。
 大掛かりなトリックながら、緻密な構造に支えられていて、円環の死角。「捩れ屋敷の利鈍」と同じ左回りでしか進めないという一方向性にしか開かないドアを扱いつつ、さらにそこに奇妙な造形(人の出入りを、人間、死者、人形、ある謎が秘められた廊下という四方向から思案したロジック)を(足したり引いたりと)組み込んでいる点が憎らしい!(普通の人が面倒くさいと思うことに挑戦することで、作者はトリック・メーカーとしての自身の地位を、早く確立しようとしているのだろうか?)
 どこまでもパズル。どこまでもトリック。振動や異動中の違和感など、現実的に疑問を感じる面もあるもの、ここまでやってくれば、感銘もの!(実は私の考えていたトリックと一部似ていたので非常に痛いけれど……その後の扱いが違ったので、やや安堵)
 全作品に、絶望感が漂い、救い無き推理小説であるうえに、首斬りロジックを、クールに書き続ける北山氏の贈る、謎解き好きの食指を確実に満たす(つまり、単なる残酷小説ではなく、謎解きのために全てを用意した。読者へのサービス精神旺盛な)ブラック・ストーリー!
 君は、このスクウェアを抜け出すことができるか?(2005/4)

スマート・スマート(3)


題「629」


 
 ビルの屋上にあるメリーゴーラウンドに乗って、悪魔に憑かれたような街を見下ろす。

 寂しい笑いと、死んだような目。
 居心地のよい場所を求めて彷徨っている。

 揺れる意識に、容赦なく吹き付ける世間の冷たい風。

 何もかもが裏目に出ることが多い忌日に、合掌のピッチを上げて、マラソン・ランナーのように逃れる。 

 周囲を見渡すと、メリーゴーラウンドに乗っているのは皆、死神だった。
 旗を持って、「おいで、おいで」と手を振っている。

 まさか。馬のピッチを上げて逃れる。
 追いついた死神が、下ろし立てのジーンズのポッケへと一枚のメモ用紙を入れてから、霧の中に消えた。続いて、周囲の死神達も一人、一人霞みながら姿を消していく……。

「私たちは60年前。ここで葬られた者達……あなたの命を取ろうなどとは思っておりません。ちょうど今年で干支が一周(60年)するので、その一周忌を記念して、天国の番人からの許しの下、この故郷へと戻ってきただけなのです」

 メモに綴られていた言葉を前に、僕は戸惑う……。

 突然、焼夷弾の音が耳を覆い。時空の捻子が逆回転する音圧に、魂は8/100化するように、分離していった。

 目前の焼け野原。爆音轟くモノクロの街の中。

 一頭の白馬に乗って、僕は原野を駆ける。

 どれぐらい駆けただろう。
 気が付くと、メリーゴーラウンドの馬は速度を緩め、回っていた世界がゆっくりと停止してゆく。
 あれは何だったのか?僕は、幻影を見ていたのだろうか?
「すみません、お客さん。機械の故障で回転盤が止まらず、さらに逆回転を始めてしまいまして」
 やはり、捻子は逆向きに回ったのか?

 私の原始脳の予感中枢はパラドックス理論を喚起してしまい、回転に対する時間軸の向きに対して、回転盤は時間ごと逆向きに流れ始めたのではないかと、通常の二乗分ほど身震いをしてしまった。

 時空を超えた旅。

 そういえばあの死神には、親子連れもいた。

 私はそこに、隣のフラワー・ショップにて購入した一輪の花を供え、一礼後、静かに立ち去った。


 後記=岡山大空襲(6/29)の被害者達へ「合掌」!

詩(17)



題「道を掃く人」


 汚れた道を掃いている男。
 意味のないこと、
 意味のあること。

 それを判断するのが、人の目だなんて。
 あぁ、本質はどんどん逸れていくばかり、
 逸れていくばかり。

 雨の上がったアスファルト。
 また道は汚れていく、
 汚れていく。

 路上の水蒸気と、砂埃のなかから、やがて生まれてゆく雨。
 一雨の雨脚は強く。雨上がりと同時に、また道には埃が溜まってゆく。

 陽射しと共に男は現れ。
 今日も道を掃き始める。

 そこにあるのは、ある種の運動の法則。

 清掃の意味とは、リズムを学ぶことに似ている。

 いや、男の動機にも目を向けなければ。

 男の瞳に浮かぶ優しい虹彩。

 今日も、男の影は道の上へと落ち、アスファルトの美は保たれ続ける。
 それは、男の心の反映。
 それは、男の背中の語る小さな優しさ。

 きらきらのアスファルトの詩。



詩(16)



題「ホテル・マテリアル」


 週末のバー。

 カクテルを傾け、クールに店を出る。

 ストリップを見た帰り道、街灯の下で、三年ぶりに再会したお前と、

 雨粒の中、ブルージーな曲の流れるホテルへと。

 シャンプーを髪の毛に、熱いシャワーで、空白の時間を洗い流す。

 体を重ね、舌を絡める。

 笑いと喧騒、愛欲と沈黙。

 倒れ込んだベッドの上。

 熱い胸の谷間へともぐり込み、捻じ曲げるように下半身を動かす。

 絡めた唇、止むことのないJAZZ。

 カーテンの向こうから射してきた光と影。

 そして、煙草の煙で幕は閉じられる。




後記

 この詩を書いた際(過去の詩です)、ひどくフィクションなのかノンなのか聞かれました。
 それほど詩という分野は、リアリティを内包していると言うことなのでしょう。

 となると、ある意味、詩って、すごいですね。

詩(15)



題「アスファルトの樹海」


 レース場の観客席で受ける風が青い。
 時折混じる砂埃。

 痛みで目を閉じた拍子に、目の前の二本脚の機械猫達は、
 視界の外側へと移動していた。

 一瞬のベスト・ショットを逃した結果、
 待っていたのはブラック・アングル。

 この瞳のファインダーは、狩人のように、
 周回遅れの四気筒のマシン達へと目を移す。

 まるで自分の人生のようさ。スロー・スピードでもアクセルに掛ける手は緩めない。

 雨の降る坂道を、哀愁に満ちたエキゾースト・サウンドを鳴らしながら、転がり続ける。

 そして、下りきったところでターン。

 これからスピード・アップするために、
 最高のタイミングを拾いながら、
 ギア・チェンジしていく。

 目の前の機械猫達が、脳裏で加速を始めた自分の加速する自我(マシン)の排気音をかき消すかのように、駆けていった。

 そして、又、コーナーの奥へと消えていく。

 消えていく猫はやがて幻に。
 まるで、幻の猫の詩が、路上にて演奏されているかのよう。

 疲れ果てた一匹の猫。
 老いたその猫は、猫撫で声を上げながら、
 ゆっくりとコースアウトしていく。

 ここで白旗を揚げた者の心は、
 亡霊へと飲み込まれてゆき、
 ダダこねる暴れるマシンの排気音を飼い慣らす事のできる勇者は、
 亡霊の幻影の持つ脚よりも速く駆け抜けていく。

 ここは、スピードに取り付かれた男達の集う、
 アスファルト製の魔の樹海。

 路上(サーキット)の策士達がスピードを競い、
 速く走る事だけに人生を賭けて生きる闘技場。

 その樹海に迷い込んだ我は、一人この円周を傍観しながら、
 心の中で飼い慣らす猫を宥める歌を口ずさんでいる。

 自分の人生のレースで、どんな展開を、どんな勝負をしよう。

 心のアクセルは、今、(脳裏にて)回転を始める。


スマート・スマート(2)



題「亡霊航路」


 俺の前に現代詩の亡霊たちが、破片となって吹き荒れている。
 その吹雪を前に、瞼を開いていることが苦痛なのだ。

 だけどそれを振り払うこともできず、この道を俺は行かなければならない。

 何故かって、俺の手には数珠が握られているだろう。
 全ての死んだ言葉。
 いや、正確には死に切れずに、彷徨っている詩の言葉たちへと祈りを与え、成仏させるために。

 言葉を無へと帰す霊力のある袈裟を着て、言霊たちに北斗の方向を示してやる。

 そう、パンドラの箱を閉じるために。
 言霊を鎮める霊力のある蒼い炎を発しながら燃え滾る、それでも固形物ではなく、液状の十字架を彼等へと向けるために、
 独り、この道を行くのだ。

 そして、彼等を鎮めた後、その土地に、言葉の墓石を置くことによって一つ一つを「封印」してゆく。

 俺の名は封印師「零号」

 逃げても無駄さ。

 一人の男の使うアリバイト・リックも俺は、見抜く術を知ってしまった今となっては、物理的干渉による逃走劇も、決して明るい結末を迎えないということを覚悟してほしい。

 作家の想像力を上回る怪盗でも、目の前に出現せぬ限りは……。

 そうやって、悲しき詩たちを封印し、新しい言葉をこの世へと誕生させよう。

 いや、新しいなどという概念などは思い上がりかもしれない。
 正確には、別の空間から新たな言葉たちを召喚してくるのだ。

 その純真な産声を聞くために、死んだ言葉たちを、北斗七星行きの列車へと乗せる。

 ハーモニック・コンコーダンスの形作られた夜。
 言葉のチェンジ期を予感している。

 この耳には、汽笛が聞こえてくる。
 言葉を総入れ替えするために訪れる
 列車の音が。

 その列車から降りた言葉を迎え、乗せる言葉を今、俺は集めている。
 そう、目の前の破片がそうだ。

 言葉の生霊を一つ一つ集めていき、
 蒼い炎を発する十字架の内へと、言霊たちを閉じ込める。

 その十字架の発する蒼炎によって、言葉を焼き、鎮め、零にする。
 しかし、質量までは失わぬ言葉たち。

 言葉の抜け殻を列車へと乗せて、見送るまでは、この道を行かねばなるまい。

 俺の前に現代詩の亡霊たちが破片となって吹き荒れている。
 その吹雪を前に、瞼を開いていることが苦痛なのだ。
 だけどそれを振り払うこともできず、この道を俺は行かなければならない。
 
 それが封印師としての
 俺の役目なのだから……。



後記=封印師「零号」というキャラクターは、偶然の産物ですが、近い将来この人物を立てたメタ・ミステリーを作品化するかもしれません。
 まだ未定ですが。


詩(14)



題「見透かされても……」


 電車のスタートと同時に、言葉がおのずから生まれてくる。
 わずか770円の距離の旅。

 くしゃくしゃにしてねじ込んだ、切符をポケットから絞り出し、
 窓の景色を見て、はにかんだ。

 僕の夢、今どこにあるだろう。 
 風が人生を漂泊し始めた拍子に、
 口ずさむメロディ。

 ドレミ鳴らすたび、
 舌噛み、舌笑い、
 ダンス、ダンス。

 おかげで、喉元はすごく涼しくなったよ。

 行き先も決めてない旅だけど、
 鴎に囁くアプローチ。

 思考の加速に身を任せ、

 僕の心は、

 スケルトン。

 今なら、見透かされてもかまわない。